世界中で1日約1万５千人とも言われるペースで、HIV新規感染者は増えている。そのなかで、欧米を上回るペースで感染者数が増加している国がタイである。
タイでHIVが爆発的に急増した原因は、主に4点あげられる。
1. 経済を支えるために、観光と売春が一体化していたこと
2. 政府が感染の拡大防止の対策を立てるまで時間がかかったこと
3. 貧困・麻薬・売春の三位一体の構造
4. エイズが売春婦や同性愛者、麻薬中毒者がかかる特殊な伝染病であるという社会的な無知
現在、感染者の年代は10代後半〜40代。この年代は経済的、社会的に貢献するはずだが、エイズに感染すると社会的から追い出され、家計的にも社会的にも多大な損失となる。しかし、最も大きな影響を与えるのは、子供の未来である。
家の働き手が病気になると、介護、生活の担い手は必然的に老人・子供になる。そこで子供は学校へ行くことを諦め、低賃金で危険な仕事へと入らざるを得ない状況においやられる。特に農村の女性は十分な教育を受けておらず、適切な仕事は見つけられないのが現状だ。110万人の小学6年生のうち、約46万人がそれ以上の学校教育を受けられない。その結果
、技能もなく少女は性産業へ入っていく。チェンライでは、売春婦の91％が6年以上の教育はうけていない、という統計もある。
教育の機会を逸し、性産業に入らざるを得なくなった少女は、多くの客をとらされる。そして、いつのまにかHIVや性病に感染したり、妊娠したりして、村に帰る。こうしてHIV保菌者はさらなる感染者を増やすという構図を作っている。
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では、何故タイに売春が蔓延したのか。その原因の根源はベトナム戦争にある。
１．米軍の慰安として発達した売春宿が、戦争終結後も観光促進外貨獲得のため、温存されたここと。
２．ベトナム戦争において軍の基地がおかれたのが、タイ北部のウドンタニやウボンチャタニ。そのため、大量 の資金が投下された。大量の資金は、タイ北部の農村の人々の価値観を消費社会・物質主義へと変えた。東北部の人達は、それまでの生活に戻れなくなり、自分の子供を売ることで生活の質の維持をはかろうとした。
３．急激な経済成長と農村開発の失敗は都市部と農村分の貧富の差を広げ、より豊かな生活を求める人々が都市部や外国に働きにでる。
これらの背景をもとに、タイのHIVに対する社会的差別も伴ってタイ全体で45万人という感染者数に膨れ上がった。経済発展、外貨獲得のために利用してきた性産業は、結果的に社会に多くの損害を生むことになった。
さらなる感染者を増やさないために、また子供がHIVの感染から救うために、できることは何だろうか。予防的手段としては、HIVに対する正確な知識の獲得、母子感染の防止などが挙げられるだろう。しかし、このような社会的サポートのための資金は、世界的に見ても驚くほど少ないのが実情である。
参考文献：「イサーンの女たち」 富岡悠時 現代書館 1990 |
